利休太閤記


本書は海音寺潮五郎によって昭和16年に出版された。大阪城を舞台に秀吉と利休の確執、お茶々と北政所、利休の娘お吟、石田光成らが繰り広げる人間模様が描かれている。
「娘を差し出せ、そなたにも、娘にも誓って悪いようにはからわぬ」という秀吉の言葉に頑として拒絶した利休。「拙者は芸道に生きる者、いつの世までも名の残る者でござる」と高い誇りを持ち続けた男・利休。面白くてあっという間に読み終えたが、あとがきの内容に驚いたので紹介します。
あとがき・・・利休という人物を芸術界の英雄として、俗界の英雄秀吉と対立の地位におき、その抗争としてとらえた。私が本書を書くまで、利休は単なる茶坊主としかみられていなかった。利休がそれまでなかった新しい美学を創始した天才的英雄であることは、今日では常識になっているが、それはこの戦後のことで、不思議なことにその以前にはなかった。本書はその新しい利休の発見者たる光栄をになっている。戦中であるので、一介の茶坊主利休ごときを、国民的英雄である秀吉と対等の位置にすえて書くとは何事だ、時局をわきまえないにもほどがあると睨まれる。しかし何くそと思い書き続けた。秀吉の朝鮮役思い立ちに、秀吉に諫言し、切腹の一因となった。執筆時の私を最も感動させたのは、利休の抵抗精神でした。日本のあらゆる階層の人が、時代の嵐と権力の前に、もろくはかなく崩れ去るのが続く時代。利休の剛直高邁さは、襟を正して仰ぐべきものと私には思われたのです。・・・利休の生き方に照らし、当時の時局に対する批判も込めた作品、本書の残した功績は大きいと思います。