楽さん
「大黒」「無一物」「一文字」「ムキ栗」彼らが私を呼び止める。くぎ付けになる。震えが背筋に添って上がってくる。・・・私は長次郎茶碗に秘された恐ろしさを見た。極まりを見た。それは世間に突き付けた抜き身の匕首。・・・・世界と己を刺し通し、表現者として果てたこの古聖に対し「利休さん、よかったね」と私は語りかけた。その時からである。優しかった私の茶碗が、激しく牙をむき始めたのは。
日経新聞 ―私の履歴書 楽直入― 2月1日から始まった連載は今日が最終回。毎日楽しみにしていた人も多かったと思う。私は友人と回し読みしていた。上記の文は18回目の後半を要約したもの。かの有名な15代の茶碗誕生の秘話。最も飲みにくい茶碗と言われたが、芸術作品とも評価され、茶道界を超えて人気が沸騰した。連載初回にちらっと書かれていたが、18回目に熱い熱い想いが読者にもズシリと響いたと思う。伝統と前衛を意識し、振り子のように生きたという人生、話が盛りだくさんで実に面白かったです。図書館に各紙の縮刷版が用意されるので、読むことができます。